相続税申告に関するコラム
平成30年度(2018年)税制改正大綱(相続税)
平成30年度(2018年)税制改正大綱が12月14日に公表されましたので、概要をまとめております。
なお、正式な税制改正は平成30年の春頃に決定する予定です。あくまで現時点での税制改正の方向性としてご確認ください。
1.小規模宅地等の特例の見直し<平成30年4月1日以後の相続等から適用>
(1)家なき子特例の見直し
持ち家に居住していない者(家なき子)に係る特定居住用宅地等の特例の対象者から次の者が除外されます。
①相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族又はその者と特別の関係のある法人が所有する国内にある家屋に居住したことがある者
②相続開始時において居住用の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者
(2)貸付事業用地特例の見直し
貸付事業用宅地の範囲から、
相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者の土地は除外)が除外されます。ただし、平成30年3月31日以前に貸付事業に供していた土地については、従前の取り扱いになります。
(3)居住用宅地の特例の見直し
介護医療院に入所したことにより、居住の用に供されなくなった土地について特例が適用されます。
コメント
小規模宅地等の特例は、相続税に与えるインパクトが大きいので、要件を満たすための対策が編み出されてきましたが、それに対して一定の網がかけられた格好です。
(1)の家なき子特例については、元々自分が持っていた土地を相続前に親族等に売却して、持ち家がない状態にすることにより特例を受ける方法が問題となっていました。
(2)の貸付事業用宅地の特例の見直しについては、相続税対策として、預金を不動産に入れ替える方法は、最もポピュラーな方法ですが、相続税対策のためだけに、直前に駆け込んで不動産賃貸業を始める節税を防止する改正です。ただし、従前から事業的規模で不動産賃貸業をされている方が直前に買った土地は今回の改正の対象外です。また、これは不動産賃貸に使われている土地について200㎡を限度として5割の減額が受けられる「貸付事業用宅地等の特例」の話であり、貸地・貸家建付地の土地の評価自体は従前のままとなります。
この改正により、影響を受ける方は多いと思われるので、平成30年3月31日までに駆け込みで不動産投資が増えることが予想されます。
2.事業承継税制の改正<平成30年1月1日から平成39年12月31日までの相続・贈与に適用
非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予(事業承継税制)の条件が大幅に緩和されました。改正ポイントを簡単にまとめると下記になります。
・納税猶予の対象となる株式数が発行済株式の
3分の2から全株式に変更
・相続税の納税猶予が税額の
80%から100%に拡大
・納税猶予を受けることができる後継者が
1名から3名に拡大
・事業承継税制を始めた後に
先代経営者以外の人からの株式の承継受けた場合も納税猶予の対象に追加
・雇用維持要件(5年間平均で8割維持)を満たさなくなった場合、直ちに納税猶予が打ち切りにならず、満たせない理由を記載した書面(認定経営革新等支援機関の意見書)があれば
納税猶予が継続
・事業承継税制を受けるための特例承継計画の作成等に
認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けることが必要
コメント
事業承継税制の利用を促進するために、従来の納税猶予対象の株式の制限(発行済議決権株式総数の3分の2)を撤廃した上で、納税猶予割合が80%から100%に拡大されることになります。優良な会社が相続税の負担で廃業を選択することがないように、事業承継を促進するための税金面での大幅な優遇策が導入されます。今後は税理士事務所としても、より積極的に活用する方向にお客様へ提案することになりそうです。また、認定経営革新等支援機関が同制度に組み込まれたのがトピックです。税理士事務所であれば認定経営革新等支援機関に登録しているケースが多いので(当事務所も登録しています)、今後利用しやすい環境が整備されてきた印象です。また、事業承継税制活用のハードルを上げている雇用確保要件(5年間平均で雇用の8割を維持)についても、満たせない理由について認定経営革新等支援機関の意見を記載した書面を提出すれば納税猶予が継続されることになります。
改正後の特例事業承継税制の詳細は
「平成30年改正 特例事業承継税制(非上場株式に係る贈与税と相続税の納税猶予制度)」を参照してください。
3.一般社団法人等に関する課税の見直し<平成30年4月1日以後の相続等から適用>
(1)一般社団法人等に対して贈与等があった場合の贈与税等の課税
一般社団法人又は一般財団法人に対して贈与等があった場合の贈与税等の課税について、贈与税等の負担が不当に減少する結果とならないものとする現行の要件(役員に締める親族の割合が3分の1以下である旨を定款に定める等)のうち、いずれかの要件を満たさなければ贈与税等が課税されることとされ、規定が明確化されました。
(2)一般社団法人等に対する相続税の課税
被相続人が役員を務める特定一般社団法人等に対し、被相続人に相続が開始した場合に、被相続人から一般社団法人等に財産の遺贈があったとみなして相続税が課税されることになりました。
特定一般社団法人等とは次の要件のいずれかを満たす一般社団法人等をいいます。
①相続開始直前における同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超えること
②相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること
コメント
一般社団法人は持分がない法人であるため、一般社団法人に財産を移して相続が開始しても、相続税が課税されないという状況になっていました。よって、一般社団法人を使った相続税対策が注目され、実態が単に相続税逃れのための法人設立が増えたため、網掛けされることになりました。
これについては、あまりにも実態とかけ離れた課税の取り扱いになっていたため、予想通りの改正といえます。
4.土地の相続登記に対する登録免許税の免税措置の創設
・相続により土地の所有権を取得した者が相続登記をしないまま死亡した場合、その者の相続人が平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に、その死亡した者を登記名義人とするための移転登記に係る登録免許税が免除されます。
・所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(仮称)の施行の日から平成33年までの間に、市街化区域外の土地で相続登記の促進を図る必要があると法務大臣が指定する土地の相続登記について、固定資産税評価額が10万円以下であれば登録免許税が免除されます。
コメント
相続登記は義務ではないため、売却等の予定のない土地については、相続登記がされないまま所有者が死亡するケースが多くあります。相続登記をするには、相続人全員が遺産分割協議書に署名押印することが必要となるため、相続登記がされてないままに相続が進むと利害関係者(相続人)の数が膨大となり、相続登記ができず、土地の売却ができないという問題が生じています。
このような相続登記の社会問題に対応するための改正です。
5.その他の改正
(1)特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度の創設
(2)農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の見直し
(3)国外に住所を有する日本国籍を有しない者の相続税・贈与税の納税義務の見直し
コメント
(1)被相続人が文化庁長官の認定を受けて美術品を美術館に寄託していて相続人が寄託を継続した場合、美術品に係る課税価格の80%に相当する相続税の納税が猶予されます。
(2)生産緑地法の改正を受けて、生産緑地について農地等の納税猶予の手当てがされています。
・都市農地の賃借の円滑化に関する法律(仮称)等に基づく一定の貸付け納税猶予の対象になる
・三大都市圏の特定市以外の地域内の生産緑地についての営農継続要件が現行の20年から終身に変更
・納税猶予の対象となる農地に特定生産緑地である農地・三大都市圏の特定しの田園住居地域内の農地が追加
(3)国外に住所を有する日本国籍を有しない者が、「国内に住所を有しないこととなった時前15年以内に、国内に住所を有していた期間の合計が10年を超える被相続人又は贈与者」から相続若しくは遺贈又は贈与により取得する海外財産については相続税・贈与税が課さないことになります。