相続税申告に関するコラム
平成31年度(2019年)税制改正大綱(相続税)
平成31年度(2019年)税制改正大綱が平成30年12月14日に公表されましたので、概要をまとめております。
なお、正式な税制改正は平成31年の春頃に決定する予定です。あくまで現時点での税制改正の方向性としてご確認ください。
1.個人事業版 事業承継税制の創設<平成31年1月1日から平成40年12月31日までの相続・贈与に適用>
個人事業者であった被相続人から事業用の資産を贈与・相続により取得し、相続人が事業を継続していく場合には事業用資産の課税価格に対応する相続税・贈与税の納税が猶予されることになります。
- 対象となる事業用の資産は、被相続人の事業(不動産貸付事業等を除く)の用に供されていた土地(面積400㎡まで)、建物(床面積800㎡まで)及び建物以外の減価償却資産で青色申告決算書の貸借対照表に計上されている資産をいいます。
- 法人の事業承継税制と同様に、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けて作成した承継計画を策定する必要があります。
- この事業承継税制を受ける場合は、特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例は適用できません。
コメント
平成30年税制改正で導入された非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度(事業承継税制)の個人事業バージョンです。
昨今、事業承継が円滑に進むために税制面が手厚く整備されていっていますがが、その流れに沿った措置といえます。法人の非上場株式については、平成30年税制改正で納税猶予制度の要件が大幅に緩和されましたが、法人化していない個人事業主の事業用資産については特段手当されていなかったため、法人と同様に納税猶予制度を設け事業承継を円滑に進める狙いがあります。
ただし、事業の規模が大きくなれば、通常法人化しているケースが多いので、個人事業者でこの税制を使うケースは多くないと思われます。法人と同様に認定支援機関の事業承継計画の作成等の手続きが必要であり、費用対効果でどの程度メリットを見出せるかがポイントとなるでしょう。
2.特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例の見直し<平成31年4月1日以後の相続に適用>
特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等が除かれることになりました。
ただし、当該宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、当該宅地等の価額の15%以上である場合は従来通り適用できます。
コメント
小規模宅地等の特例については、本来の趣旨を逸脱した節税方法が行われているという問題があり、防止のため継続的に改正されています。貸付事業用宅地の特例については前年の改正大綱で、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供した土地は特例から除く旨の改正がされていますが、今回も同じ趣旨から、相続直前に駆け込み的に事業用資産を購入するのを防ぐ目的から改正されます。
3.成人年齢18歳引き下げに伴う相続税の改正<平成34年4月1日以後の相続・贈与から適用>
(1)相続税の未成年者控除の対象となる相続人の年齢が現行の20歳未満から18歳未満に引き下げられます。
(2)次の制度における受贈者の年齢要件が現行の20才以上から18才以上に引き下げられます。
- 相続時精算課税制度
- 直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率(特別税率)の特例
- 相続時精算課税適用者の特例
- 非上場株式に係る贈与税の納税猶予における受贈者の年齢要件
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民法の改正により、成人年齢が18才に引き下げられるため、それに伴い未成年控除の適用年齢や贈与税に関する年齢要件が改正されます。
4.配偶者居住権の評価方法
民法改正で新たに創設される配偶者居住権について、相続税の評価方法が定められました。
(1)配偶者居住権
建物の時価−建物の時価×(残存耐用年数一存続年数)/残存耐用年数×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
(2)配偶者居住権が設定された建物(以下「居住建物」という。)の所有権
建物の時価−配偶者居住権の価額
(3)配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利
土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
(4)居住建物の敷地の所有権等
土地等の時価−敷地の利用に関する権利の価額
※1 建物および土地の時価とは、配偶者居住権が設定されていない場合の時価をいいます。
※2 残存耐用年数とは、耐用年数(住宅用)に1. 5を乗じて計算した年数から経過年数を控除した年数をいいます。
※3 存続年数とは、居住権の期間が終身であれば平均余命年数、遺産分割協議等により定められた存続期間の年数(配偶者の平均余命年数を上限)をいいます。
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民法改正により、新たに配偶者居住権という権利が創設されました。これは、相続が発生し、遺産分割により配偶者が所有権を得ずとも建物にそのまま居住できる権利を認めることにより、配偶者の生活を保護するための制度です。評価方法としては、平均余命等を利用して配偶者の居住年数を推定し、居住権と所有権の評価額に按分する考え方が採用されています。
5.空き家の譲渡所得に係る3,000万円特別控除の要件見直し<平成31年4月1日以後の譲渡から適用>
老人ホーム等に入所をしたため被相続人の居住の用に供されなくなった家屋及土地等について、下記要件を満たす場合は特例が適用されることになりました。
(1)被相続人が介護保険法に規定する要介護認定等を受け、相続の直前まで老人ホーム等に入所をしていたこと
(2)被相続人が老人ホーム等に入所をした時から相続直前まで、その家屋について一定の使用がなされ、かつ、事業の用、貸付けの用又は被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと
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現行制度では、被相続人がその生前に老人ホーム等に入居していて、既にその家屋を居住の用に供していなかった場合には、空き家特例を適用できませんでした。
実務的にもこのケースはよく直面し、売却にあたりネックとなっていましたが、空き家の譲渡を促進する観点からも居住要件が緩和されることになりました。
6.その他の改正
(1)教育資金の一括贈与非課税措置の延長・見直し<平成31年4月1日以後の贈与から適用>
(2)結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置の延長・見直し<平成31年4月1日以後の贈与から適用>
コメント
(1)直系尊属(祖父母、父母等)から教育資金に充てるために信託銀行等の金融機関との一定の契約に基づき贈与を受けた場合に、1,500万円まで贈与税が非課税となる「教育資金の一括贈与非課税制度」は平成31年3月31日が期限でしたが、2年間延長されることになりました。
同様に(2)直系尊属(祖父母・父母等)から、20歳以上50歳未満の子や孫等へ結婚・子育て資金を贈与した場合、1,000万円まで贈与税が非課税となる「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度」も平成31年3月31日が期限でしたが、2年間延長されることになりました。
なお、上記制度は格差拡大につながるとの批判もあったことから、受贈者に1000万円の所得制限が儲けられる等、一定の制限がかけられることになります。