相続税対策(生前対策)の定番としては、①被相続人から相続人等に金銭を贈与していく暦年贈与が最もポピュラーですが、暦年贈与は被相続人と相続人が贈与についてお互い話し合った上で贈与契約を締結して実行していかなければなりません。
しかしながら、将来の相続税の話題はデリケートな側面を含んでいるため、なかなか家族内で相続税対策の話し合いの場を設けることができず、具体的な対策に取組めていない家庭が非常に多いのが現実です。
被相続人の容態が悪化した後や平均寿命を超えた年齢になってから慌てて生前贈与をしようとしても、相続時から3年前までの相続人に対する生前贈与は相続財産に加算されてしまうため、手遅れになってしまいます。
また、アパート経営等の不動産投資も相続税対策の定番ですが、供給過剰な現状ではよっぽどいい立地でないと将来の家賃低下・入居率低下リスクが重く圧し掛かるため、気軽に取組めるものではありません。
しかし、数ある相続税対策の中でも比較的
取組みやすくかつ
相続税の節税効果が高いのが生命保険の活用です。
相続税は人生で一度しか課税されないため、その課税時期(相続時)のタイミングだけ生命保険を使って相続財差を低く評価することが出来れば、大きな節税効果を生み出すことが出来ます。
生命保険による相続税対策は
①非課税枠の活用と②相続財産の圧縮効果の2つに大別されます。
①死亡保険金の非課税枠の活用
被相続人の死亡によって取得した生命保険金で、その保険料の全部又は一部を被相続人が負担していたものは相続税の課税対象となりますが、
500万円×法定相続人の数の金額までは非課税となります。
なお、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません。
よって、生前に契約者(保険料負担者)=被相続人、非保険者=被相続人、受取人=相続人の形態で一時払い終身保険に非課税限度額まで入ることにより、相続財産を圧縮することが出来ます。
例)相続人が3人のケースで1,500万円一時払い終身保険に加入した場合
よって、仮に
相続税率が30%であれば、1,500万円×30%で450万円も節税できることになります。
この生命保険の非課税枠についても活用されていない方が非常に多いのが現実です。
また、被相続人が高齢になっていると、今から保険に入るのは無理と思い込まれていることがありますが、保険会社によっては、
90歳まで入ることが出来る一時払い終身保険もあります。また、過去に病気や入院歴があっても現在入院されていなければ保険に入ることも可能です。
この生命保険の非課税制度は上記の例でいえば、銀行に預けている1,500万円を生命保険に1,500万円移すだけで450万円も節税することができる即効性の高い節税方法です。
また、相続人の同意を取ることなく
被相続人の意思のみで保険に加入することができるのも特徴の一つです。
②生命保険契約に関する権利の評価の活用(相続財産の圧縮効果)
契約者(保険料負担者)を被相続人、被保険者を相続人という生命保険に加入した場合、相続発生時の相続財産の評価額は解約返戻金相当額で評価することになります。そのため、相続時の解約返戻金を低く設定している保険に入っていれば、相続財産を圧縮することが可能となります。
保険料の払込期間中は解約返戻金が通常の解約返戻金に比べて低く設定されている商品(低解約型)があります。解約返戻金が低く設定されている分、保険料は割安となっていることが一般です。
払込期間中、すなわち解約返戻金が低い時点で相続が発生すると、相続財産は解約返戻金で評価するため、相続財産を圧縮することができ相続税を節税することができます。
相続時に保険は解約せずにそのまま継続し、解約返戻金が高くなった時点で当該保険を解約すれば、相続税は節税しながら払い込んだ保険料を回収することができます。
低解約評価を活用した相続税対策向けの商品として下記のものがあります。
例1)逓増定期保険に加入した場合
【契約関係】
契約者 |
被相続人 |
被保険者 |
相続人 |
受取人 |
被相続人 |
保険料の払込期間中は解約金の返戻率は低率で推移し、払込期間が経過すると解約返戻金はほぼ100%になるタイプの保険です。
例えば、保険料5000万円の逓増定期保険に加入した場合、4年後に相続が発生すると、4年後の解約返戻金(未経過保険料含む)は約20~30%となるため、
相続財産を70%~80圧縮することができ、相続税率が50%とすると約1,900万円節税することができます。
そして解約返戻金が95%近くまで高くなる5年目に解約すれば、支払った保険料もほぼ全額返ってくるため、資金を減らすことなく相続税を節税することができます。
この保険は払い込んだ保険料を比較的短期間で回収できることがメリットといえます。
例2)解約返戻金がゼロ円の終身保険に加入した場合
【契約関係】
契約者 |
被相続人 |
被保険者 |
相続人 |
受取人 |
被相続人 |
終身保険の中には、解約返戻金がほぼゼロ円に設定されているタイプがあります。被相続人に相続が開始した場合、当該保険契約は生命保険に関する権利として解約返戻金で評価するので、相続財産はゼロ円で評価することになります。
例えば保険料2,000万円の保険に入った後相続が開始すると、当該
保険契約の評価額はゼロ円となるため、相続税率が50%であれば、2000万円×50%=1,000万円節税することができます。
相続人が3人いる場合は、それぞれが被保険者として入れば2,000万円×3人で6,000万円相続財産を圧縮することができます。
ただし、前納保険料を一括で払い込んでも、払込期間が経過するまでは、未経過期間に対応する金額は前払保険料として相続財産に計上することになります。よって、相続が開始する直前に入るよりも、早めに入った方が節税効果は高くなります。
また、この保険は解約返戻金がないので途中で解約することは出来ません。よって、最終的な資金の回収は相続人に相続が発生した時になるので、この保険に入る方は資金的に余裕がある方が適しています。
また、この保険は一時相続が発生した後に受取人を孫(相続人の子供)等にすることで、相続人の相続時(二次相続)には生命保険の非課税枠を活用することができます。
今回紹介した商品以外にも相続税対策に効果的な保険はありますが、節税額を大きくするには一般的に3年から15年の期間が必要になります。よって、相続が発生する直前に保険に入っても期待通りの節税効果えることは難しいため、余裕をもって取組むことが求めれられます。
また、それぞれの商品でメリット・デメリットがあるため、保険を使った相続税対策をご検討の方はお気軽にご相談ください。
生命保険を活用した相続税対策は税金の高度な知識が必要となりますので、税理士等の専門家にご相談されることをおすすめします。