相続税申告に関するコラム
平成29年度(2017年)税制改正大綱(相続税)
1.国外財産の非課税の要件の見直し<平成 29 年4月1日からの相続・贈与に適用>
国外財産の相続税・贈与税の非課税の要件が、被相続人(贈与者)及び相続人(受贈者)が
相続開始前10年(現行:5年)以内に国内に住んでいないことになりました。
また、国内に住所も国籍もない相続人等が相続開始前 10 年以内に国内に住所を有していた被相続人等から相続又は遺贈により取得した国外財産が相続税の課税対象になりました。
コメント
簡単に言うと、被相続人・贈与者と相続人・受贈者のどちらかが過去10年の間に日本に住んでいたことがある場合には、相続や贈与の時点で日本に住んでいなかったとしても、国内外問わず世界中の財産に相続税や贈与税がかかることになります。
5年から10年に延長されたことで、相続税対策のために海外に移住する方法は、従来よりも厳しくなりました。国外財産の相続税逃れを封じる規制が強化されています。
2.居住用超高層建築物(タワーマンション)に対する固定資産税の見直し<平成30年から新たに課税される建築物から適用>
高さが 60mを超える建築物(建築基準法令上の「超高層建築物」)のうち、複数の階に住戸が所在している「居住用超高層建築物」については、高階層の方が売買価格が高いことから、階層間の価格差を反映するために補正されることになりました。要は高いフロアの部屋ほど固定資産税評価額が上がることになります。ただし、建物全体の固定資産税評価額は変わりません。
階層別専有床面積補正率は、居住用超高層建築物の1階を100とし、
階が一を増すごとに、10 /39を加えた数値となります。
コメント
タワーマンションの各部屋の建物の固定資産評価額は、同じ床面積であれば、1階であろうが高層階であろうが同じ金額でした。実際は、高層になるほど売買価格は高くなることから、高層の部屋を買えば、相続税評価額(固定資産税評価額)と売買価格との差額が大きくなり、節税効果が大きいことから、相続税対策として富裕層が積極的に購入していました。従来から国税よりメスが入ると言われてきましたが、今回の改正で是正されることになりました。例えば、40階の部屋だと1階の部屋と比べて(40階−1階)×10/30=10% となり、10%評価額が上がることになります。実勢に比べて価格差が小さいことから、節税効果に与える影響は限定的と言えそうです。今回は固定資産税評価額そのものの見直しですが、固定資産税評価額に基づいて評価する相続税の方法自体の改正も今後行われると言われているので、次回の影響の方が大きいかもしれません。
3.相続税等の財産評価の適正化による見直し
(1)取引相場のない株式の評価の類似業種比準方式の見直し<平成29年1月1日以後の相続等から適用>
(イ)類似業種の上場会社の株価について、現行に課税時期の属する月以前
2年間平均を加える。
(ロ)類似業種の上場会社の配当金額、利益金額及び簿価純資産価額につい て、
連結決算を反映させたものとする。
(ハ)配当金額、利益金額及び簿価純資産価額の比重について、
1:1:1とする。
コメント
ハ)について、従来は配当金額、利益金額及び簿価純資産価額の比重は1:3:1であり、利益のウェイトが高かったので、赤字決算にする等で短期的に株価を下げる対策が行われてきましたが、利益のウェイトが下がることで今後は短期的に株価を下げるのが難しくなります。
(2)その他評価方法の見直し<平成30年1月1日以後の相続等から適用>
・広大地の評価について、現行の面積に比例的に減額する評価方法から、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法に見直すとともに、適用要件が明確化する。
・株式保有特定会社の判定基準に新株予約権付社債を加える。
コメント
広大地の評価は計算方法自体はシンプルですが、広大地が適用できるか否かの判定は実務上難しい面がありました。広大地の評価は相続税に与えるインパクトが非常に大きいので、税理士としては適用要件が明確化されることは有り難いです。
また、株式保有特定会社(株特)の改正は、潜在株式である新株予約権付社債を含めることで、「株特外し」が防止されます。最近、非上場株式の評価において、過度な株価対策を国税が否認するケースが増えており、その対策の一環と思われます。