相続税基礎知識に関するコラム
障害者控除とは
相続が発生し、相続又は遺贈により財産を取得した人(相続人)が障害者である場合、その後の相続人の生活保障等を配慮し、相続税の額から一定の金額を直接差し引くことが認められています。
この税額控除のことを「障害者控除」といい、85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)を相続税額より直接控除することができます。
また、障害者控除額が障害のある相続人の相続税額を上回る場合、控除しきれない金額は扶養義務者である他の相続人の相続税額から直接差し引くことができます。
1.相続税の障害者控除が受けられる人
1-1.適用要件
障害者控除が受けられるのは次の3つの要件すべてに当てはまる人です。
要件
- ・ 相続又は遺贈により財産を取得したときに日本国内に住所がある人
- ・ 被相続人の法定相続人であること
- ・ 相続開始時に障害者である人
(原則として相続時に85歳未満で障害者と認定されている人)
1-2.障害者の区分
税法上では、障害の重さにより「一般障害者」と「特別障害者」に区分されます。
- (1) 一般障害者
- ・【障害者手帳の障害程度】
身体障害者手帳:3級から6級の方
療育手帳:B判定の方(詳細は自治体ごとに区分)
精神障害者保健福祉手帳:2級又は3級の方
- ・ 特別障害者以外の障害者認定を受けている方
- ・ 戦傷病者手帳の交付を受けている方
▶その他、詳細に関しては国税庁HP(第19条 4-1 一般障害者の範囲)でご確認ください
- (2) 特別障害者
- ・【障害者手帳の障害程度】重度の障害
身体障害者手帳:1級又は2級の方
療育手帳:A(重度)判定の方 (詳細は自治体ごとに区分)
精神障害者保健福祉手帳:1級の方
- ・ 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター若しくは精神保健指定医の判定により精神又は身体に重度の障害、又は重度の知的障害者であると認定された方
- ・ 認知症、知的障害、精神上の障害などにより物事を判断する能力が十分でない成年被後見人の方
- ・ 戦傷病者手帳に精神上又は身体上の障害の程度が恩給法別表第一号表の二の特別項症から第三項症までであると記載されている方
▶その他、詳細に関しては国税庁HP(第19条 4-2 特別障害者の範囲)でご確認ください
1-3.障害者手帳とは
「障害者手帳」は下記3種手帳の一般的な総称として用いられます。
- Ⅰ.「身体障害者手帳」… 障害の程度により1級から6級までの区分
⇒ 身体の機能に一定以上の障害があると認められた方に交付される手帳
- Ⅱ.「精神障害者保健福祉手帳」… 等級は、1級から3級
⇒ 児童相談所又は知的障害者更生相談所において、知的障害があると判定された方に交付される手帳
- Ⅲ.「療育手帳」… 等級区分は各自治体で設定
⇒ 一定程度の精神障害の状態にあることを認定する手帳
障害者であることを認定する障害者手帳をお持ちでない方でも、相続税の申告期限までに障害者手帳を申請中、又は相続時すでに障害者であったことが記載された医師の診断書でも適用の対象となる可能性はあります。
また、介護保険の要介護認定を受けているだけでは障害者には該当せず、障害者控除の適用は受けられません。
ただし市区町村の担当部署へ
「障害者控除対象者認定書※」を申請し、障害の程度が障害者手帳の認定基準に準ずると認められた場合には、「障害者控除」又は「特別障害者控除」による税額控除を受けることができます。
※「障害者控除対象者認定書」
介護保険の要介護認定を受けた65歳以上の人で、障害者控除の対象と市区町村に認められる場合に交付されます。
2.障害者控除の申告
2-1.基礎控除額
相続開始時から満85歳になるまでの年数によって、それぞれ控除額を計算します。
(1年未満は切捨て 例:55歳6カ月⇒55歳で計算)
一般障害者:(85歳 - 相続開始時の年齢) ×10万円
特別障害者:(85歳 - 相続開始時の年齢) × 20万円
2-2.控除額の計算
具体例
(1) 相続による遺産を取得
【相続日:平成25年5月6日】
法定相続人は2人である
相続人のうち1人は、相続日時点で70歳3ヶ月の一般障害者であり、遺産分割により相続税額は次のように決定した
相続税総額:100万円
→障害者である相続人の相続税額:50万円
→障害者の扶養義務者である相続人の相続税額:50万円
控除額の計算
障害者控除額:10万円 × (85歳 - 70歳) = 150万円
85歳 - 70歳3ヶ月(1年未満切捨て) = 15年
控除額150万円のうち、障害者である相続人の相続税額50万円に対して控除額50万円を適用
控除しきれない金額100万円を扶養義務者である相続人へ振り分け
相続税額50万円に対して控除額50万円適用
相続税額100万円 = 相続人の合計控除額100万円 ⇒ 相続税額はゼロ (0)
( 控除しきれなかった金額:50万円 (150万円 - 100万円 = 50万円) )
(2) その9年後、相続による遺産を取得
【相続日:令和4年5月1日】
法定相続人は1人
相続日時点で79歳3ヶ月の一般障害者
控除額の計算
障害者控除額:10万円 × (85歳 - 79歳) = 60万円 (※)
85歳 - 79歳(1年未満切捨て) = 6年
💡 過去に障害者控除を適用している場合
今回の相続税申告で適用できる控除額は、次の金額の少ないほうを適用する
前回の相続:控除残額50万円 < 今回の相続:控除額60万円 (※)
→ 今回適用できる障害者控除額は「50万円」
相続時点での年齢で算出した控除額60万円の方が金額が大きくなるため、前回の控除しきれなかった金額を適用
2-3.障害者控除の申告に必要な書類
- ・ 適用条件を満たしていることを証明する障害者手帳などのコピーを添付
- ・ 相続税申告書は第6表「未成年者控除額・障害者控除額の計算書」に障害者控除額の必要事項・金額を記入
2-4.相続税の申告書第6表 障害者控除額の計算書
具体例2. (1) を転記
(障害のある相続人の相続税額から控除する障害者控除額)
上記で計算した②障害者控除額と③障害者の相続税額のいずれか少ない金額を障害のある相続人の「障害者控除額」として適用します。
また、②障害者控除額が③障害者の相続税額を超過する場合は、その超える金額を④「控除しきれない金額」として記入します。
(扶養義務者の相続税額から控除する障害者控除額)
Ⓐ欄の金額は、障害者の扶養義務者の相続税額から控除することができますから、その金額を扶養義務者間で協議の上、適宜配分し、次の⑥欄に記入します
2-5.障害者控除額が相続税額より多い場合
障害者控除を適用することによって、相続税申告額が0(ゼロ)になる場合には、法律上は相続税の申告義務はありません。
ただし、障害者控除は、一生のうちに使える金額に上限が設けられています。適用できる控除額は過去の相続において控除しきれなかった金額と 相続発生時において85歳に達するまでの残り年数による控除額のうち、少ない金額となります。
前回の相続で適用した障害者控除の正確な金額を把握するには、相続税を算出しておく必要があるため、実質的には相続税申告書の作成が求められることになります。
次の相続で障害者控除を適用する可能性がある場合、実務では、相続税申告書を作成して、税務署に提出することもあります。