相続税基礎知識に関するコラム
配偶者居住権とは
被相続人が所有していた自宅に残された配偶者が住んでいる場合、遺言や遺産分割の結果、配偶者以外の者が家屋を相続すれば配偶者の居住権が不安定になります。
そこで、残された配偶者がいままで通りの生活を送れるようにするため、平成30年7月の民法改正により、「配偶者居住権」が創設され令和2年4月1日より施行されています。
1.配偶者居住権の概要
配偶者居住権は、相続開始時に配偶者が被相続人所有の建物に居住していたこと等を成立要件として、被相続人が亡くなった後も配偶者がその建物に終身又は一定の期間、無償で居住することを認める権利をいいます。
配偶者居住権の存続期間は、大抵は配偶者が死ぬまで(終身)と設定しますが、6カ月の短期や、5年や10年等の任意の年数を定めることもできます。
これは、遺産分割協議書や遺言で決めることになります。
- 相続開始から常に6カ月間住み続けることができる「配偶者短期居住権」
- 終身又は一定期間住み続けることができる「配偶者居住権」
配偶者が取得する権利の評価額
【建物】①配偶者居住権
【土地】③配偶者敷地利用権(配偶者居住権が設定された敷地の利用権)
配偶者以外の相続人が取得する権利の評価額
【建物】②配偶者居住権が設定された建物の所有権
【土地】④配偶者居住権が設定された敷地の所有権
2.配偶者居住権等の評価額
以下のように算定します。
建物の相続税評価額(固定資産税評価額)=
①配偶者居住権の評価額 + ②配偶者居住権が設定された建物の所有権の評価額
2-1.「①配偶者居住権」の価額の算定方法
建物の相続
税の評価額
(固定資産税
評価額)
ー
建物の相続
税の評価額
(固定資産税
評価額)
×
(法定耐用年数×1.5ー築年数)ー 存続年数
(法定耐用年数×1.5ー築年数)
×
存続年数に
応じた法定
利率による
複利原価率
【参考】存続年数とは遺産分割協議等で定められた配偶者居住権の存続期間の年数。(平均余命年数が上限とされる)
2-2.「②配偶者居住権が設定された建物の所有権」の価額の算定方法
居住建物の相続税評価額から、①配偶者居住権の価額を差し引いた価額が②配偶者居住権が設定された建物の所有権の評価額となります。
【建物の相続税評価額】 = 固定資産税評価額 - 配偶者居住権の価額
土地等の相続税評価額=
③「配偶者敷地利用権」の評価額 + ④「配偶者居住権が設定された敷地の所有権」の評価額
2-3.「③配偶者敷地利用権」の価額の算定方法
土地等の
相続税
評価額
ー
土地等の
相続税
評価額
×
存続年数に
応じた法定
利率による
複利原価率
2-4.「④配偶者居住権が設定された敷地の所有権」の価額の算定方法
土地の相続税評価額 - ③配偶者敷地利用権の価額
2-5.《参考1》機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表【建物】(一部抜粋)
種類 |
用途 |
耐用年数(年) |
鉄骨鉄筋コンクリー ト造又は鉄筋コンク リート造のもの |
住宅用 |
47 |
木造又は合成樹脂造 のもの |
住宅用 |
22 |
※配偶者居住権の価額算定では住宅用の耐用年数を1.5倍したものを用います。
2-6.《参考2》法定利率(年3%)による複利現価率(一部抜粋)
存続年数 |
権利現価率 |
1 |
0.971 |
5 |
0.863 |
10 |
0.744 |
15 |
0.642 |
20 |
0.554 |
25 |
0.478 |
30 |
0.412 |
3.二次相続時の節税効果
配偶者居住権を設定することで、自宅は「配偶者居住権の価値」と「所有権の価値」の二つに分けて評価されます。
元々の自宅の評価額より「配偶者居住権」の評価額を差し引いた価額が、「配偶者居住権が設定された所有権」の評価額となり、どちらも相続税の対象となります。
将来、「配偶者居住権」を設定していた方が亡くなると一次相続時に設定した「配偶者居住権」は法律上消滅し、二次相続における課税対象となりません。
この点が相続税に大きく関係し、節税効果にもつながっていきます。
例えば、配偶者居住権を持った母親が亡くなった時点で、一次相続時にその所有権を相続した子(相続人)は、二次相続時には相続税を負担することなく、自宅を自由に利用できるようになるということです。
4.小規模宅地の特例」の適用効果
【配偶者居住権に係る小規模宅地の特例の取扱い】
令和2年4月1日以後に相続等により取得した財産に係る相続税から、「配偶者敷地利用権」及び「配偶者居住権が設定された敷地の所有権」は小規模宅地の特例の対象となることが示されています(新設:措通69の4-1の2)
一方で、土地の評価額が80%減額される(330㎡までの部分)、「小規模宅地等の特例」という制度があり、評価額が下がる分相続税も軽減されます。
この特例の適用は、配偶者又は同居している相続人等が土地を相続することが条件で、別居している相続人が自宅を相続しても一次相続では適用されません。
しかし二次相続については、別居であっても、持ち家がない等一定の要件を満たす親族なら、特例として適用を受けることができます。
したがって、一次相続で相続するより、二次相続で小規模宅地の特例を使って相続した方が有利というなるケースも生じます。
節税につながりやすい配偶者居住権ですが、不動産の評価額によっては配偶者居住権を設定せずに二次相続で小規模宅地の特例を活用した方が節税になります。
また二次相続時の配偶者の遺産額の多寡によっても変わってくるので、ケースバイケースともいえます。
ただし、節税効果のシミュレーションも大事ですが、配偶者居住権の趣旨は、配偶者が老後を安心して暮らすことができるように建物の居住権を保護することですので、本来の趣旨を鑑みて配偶者居住権の活用を検討することが求められます。